中心複合体の構造

中心複合体は,中心体下部(Lower division of central body),中心体上部(Upper division of central body),前大脳橋(Protocerebral bridge),小結節(Noduli)の4つの神経回路から構成される,正中線付近の領域と定義される.側副葉以外は,正中線にまたがっており,脳内で一つ存在する.モデル動物のキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterでは,中心体下部・中心体上部はそれぞれ,楕円体(Ellipsoid body)・扇状体(Fan-shaped body),と呼ばれる(Hanesch et al., 1989; Young et al., 2009).

中心複合体の機能

偏光応答性
バッタでは,中心複合体の細胞の約20%が偏光に対して応答を示し,特に中心体下部に分枝を持つ細胞で顕著である.中心体下部は,偏光を使わない昆虫においてあまり発達していない.

視覚性認知

ショウジョウバエを用いた,図形等を用いた視覚性刺激の学習実験により,中心複合体が,こうした視覚情報の認知,記憶に関与することが示唆されている(Liu et al., 2006).この報告によると,扇状体が視覚情報の空間パターンの記憶に重要であり,扇状体内部の異なる層が異なる特徴の記憶形成に関与することが分かっている.また,視覚性手掛かりを用いた空間学習課題においても,楕円体(中心体上部の相同回路)への抑制性の入力信号が重要であることが分かっている(Neuser et al., 2008).

求愛歌生成
中心体にアセチルコリン合成酵素の阻害剤や,NO合成酵素の遮断薬を投与すると,コオロギの求愛歌の生成が阻害されることから,こうしたプログラム化された歌のパターンの司令に,中心体が重要な役割を持つことが示唆されている(Hoffmann et al., 2007; Weinrich et al., 2008).