高野山と宇宙
セッションタイトル
「高野山と宇宙」
日 時:7月11日(木)9:30-11ː30
会 場:金剛峯寺大会議室
キーワード
宇宙、天文、密教、観念
オーガナイザー
吉本 英樹 東京大学先端科学技術研究センター 先端アートデザイン分野 特任准教授
「1200年後の世界」との関わり
真言密教に伝わる瞑想法、月輪観や阿字観は、自己と全宇宙が一体となることを観念せよと言われています。それに代表されるように、高野山の教えにおいては、1200年以上前から、我々自身と宇宙全体との繋がりについて様々に想いと考えが巡らされたきたものと思います。その間、宇宙と人類の関係は極めて大きく変わりました。コペルニクスが地動説を説いたのも高々500年前、世界で初めて宇宙空間に達したとされるA4ロケットが打ち上げられたのはまだ80年前です。今から1200年後、宇宙は今では想像できないほど人類にとって身近な存在になることは間違いないでしょうし、それによる大きな恩恵や、あるいは新しい脅威も生まれるでしょう。1200年後の宇宙と我々の姿を想像するのに、高野山ほど最適な場所は無いと思います。
セッションの概要
高野山は、その地理的特性からも「宇宙」を感じさせる場所です。標高800メートルの山上に広がる高野山は、雲海に包まれることも多く、まるで空の中に浮かぶ島のようにも感じます。また星空も非常に美しく、夜空を見上げると無数の星々が広がり、その星々の連なりを目で追っていくと、自分がいま地球という惑星に立って宇宙の中に存在しているんだということを、意識せざるを得ません。
そして、その高野山で実践されてきた弘法大師空海の教えも、やはり宇宙と深く結びついています。密教の象徴ともいえる曼荼羅は、宇宙の秩序や法則を描いたものであり、空海はこれを用いて、我々の存在が宇宙と密接に結びついていることを説きました。密教の教えにおける宇宙観は、全ての存在が相互に関連し合う「縁起」の思想と結びついていると言われます。これは、宇宙の中で我々が孤立して存在するのではなく、あらゆるものが互いに影響し合いながら、その関係性の中で存在しているのだという考えです。この縁起の思想は、現代の科学的な宇宙論とも通じるものがあるように感じます。ビッグバン理論により宇宙が一つの点から始まり、膨張し続けているという現代の宇宙論も、全てが一つの起源から連鎖的に展開しているようなイメージを想起します。
本セッション「高野山と宇宙」では、高野山の地において、我々と宇宙の繋がりに考えを馳せることで、改めて、我々の存在について議論をするセッションです。ご登壇者は、学校法人高野山学園法人本部長であり高野山報恩院住職の山口文章氏、国立天文台天文情報センター上席教授の渡部潤一氏、写真家の上田優紀氏、JAXA宇宙探査イノベーションハブ・ハブマネージャの大塚成志氏。宗教、天文学、芸術、宇宙開発という、それぞれに異なる視点から宇宙を見つめている各氏とのディスカッションを通じて、宇宙の中での自分の位置を再確認し、希望あふれる未来へのイメージを一緒に観念することができればと考えています。
高野山の宇宙観は、我々が宇宙とどのように関わり合いながら生きるべきかを示す重要な指針を与えてくれるはずです。本セッションが、他にはない、ユニークな宇宙への視点を得る場になることを目指したいと思います。
登壇者
上田 優紀 写真家
大塚 成志 JAXA宇宙探査イノベーションハブ ハブマネージャ
山口 文章 学校法人高野山学園法人本部長
渡部 潤一 大学共同利用機構法人 自然科学研究機構 国立天文台天文情報センター 上席教授
登壇者プロフィール

吉本 英樹(YOSHIMOTO Hideki)
東京大学工学部航空宇宙工学科、同修士課程修了。その後渡英し、2016年英国 Royal College of Art、Innovation Design Engineering学科博士課程修了。2015年にロンドンで Tangent Design and Invention Ltd 創業。2020年より東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。工学とデザインのハイブリッドな分野で活躍し、両分野で受賞多数。自身のスタジオ「TANGENT」では、多国籍なチームを率い、世界的な高級ブランドを顧客に、プロダクト開発から展示会ディレクションまで様々なデザインプロジェクトを手がける。2021年和歌山県文化奨励賞を受賞。

上田 優紀(UEDA Yuki)
1988年、和歌山県出身。京都外国語大学を卒業後、24歳の時に世界一周の旅に出発し、1年半かけて45カ国を周る。帰国後、株式会社アマナに入社。2016年よりフリーランスとなり、想像もできない風景を多くの人に届けるために世界中の極地、僻地を旅しながら撮影を行なっている。近年はヒマラヤの8000m峰から水中、南極まで活動範囲を広めており、2021年にはエベレスト(8848m)を登頂した。2017年Canon “SHINES” 2017 品川一治選、写真集「Ama Dablam」(2018年)、写真集「空と大地の間、夢と現の境界線 -Everest- 」(2022年)、新書「エベレストの空」(2022年)

大塚 成志(OTSUKA Seiji)
1992年慶應義塾大学商学部卒業、 宇宙開発事業団(NASDA)に入社。2003年に三機関統合により宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足。宇宙輸送技術部門事業推進部計画マネージャ、広報部 企画・普及課長等を経て、現在、宇宙探査イノベーションハブ・ハブマネージャ。種子島に赴任していた2011年に森脇裕之多摩美術大学准教授(現 教授)らと出会い、種子島宇宙芸術祭の立ち上げに参画。現在は種子島宇宙芸術祭実行委員会アドバイザーも務める。

山口 文章 (YAMAGUCHI Bunsho)
京都府立大学大学院農学研究科林学専攻博士課程単位取得退学。総本山金剛峯寺職員、高野町教育長、高野山真言宗山林部長、高野山真言宗総長公室長、高野山開創1200年記念大法会事務局長、高野山霊宝館長等を経て、現在、高野山報恩院住職、学校法人高野山学園法人本部長。主な著書に『新・高野百景』其の壱~参(教育評論社、2006-2010)がある。

渡部 潤一(WATANABE Junichi)
1960年、福島県生まれ。東京大学大学院、東京大学東京天文台を経て、自然科学研究機構国立天文台上席教授、総合研究大学院大学教授。国際天文学連合副会長。理学博士。太陽系小天体の研究の傍ら、講演、執筆、メディア出演でも活躍。国際天文学連合では、惑星定義委員として準惑星という新カテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えた。著書に「賢治と「星」を見る」(NHK出版)、「古代文明と星空の謎」(筑摩書房)、「第二の地球が見つかる日」(朝日新聞出版)など多数。