インクルーシブデザイン

セッションタイトル
「インクルーシブデザイン」

日 時:7月11日(金)13ː30-15ː30
会 場:高野山大学黎明館

キーワード
デザインフォーオール、ネイチャーセンタードデザイン、ダイバーシティ、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、当事者研究

オーガナイザー
伊藤節 東京大学先端科学技術研究センター 先端アートデザイン分野 特任教授

「1200年後の世界」との関わり
2400年前のギリシャ、ローマ、600年前のイタリア・ルネッサンスのレオナルドダヴィンチらが継承してきた西洋科学技術の発展、そしてここ150年で体験してきた4つの産業革命を通して、現代の私たち人類は科学技術の大きな発展の恵みとともに、人間中心の科学技術がもたらした自然体系破壊や人類間の紛争による破滅の危機をも孕んでいます。1200年前に高野山の空海が説いた宇宙や自然と一体化する東洋的な包摂思想は、今後600年、1200年、2400年後の社会を継続発展させていくための大きな指針になります。未来の人材や社会を構築していくための教育やデザインも、人を含む自然界の多様性あふれる個性を互いに尊重しつつみんなで協力し合い、人材を育成、社会をコ・デザインしていくことが大切です。

セッションの概要
複雑混迷を極める今日の地球規模の環境・社会問題の中で、自然の一部である人類はいかに人間性を回復し、人間の内なる自然も含む自然と共生し、本来の自然に近い姿で生きていけるのでしょうか? 私たち先端アートデザイン分野が進めているアートデザイン活動は、人が人間らしく自然に生きるために必要な原動力であり、この問いに対する複合的な解を生むための有効な手段です。
その中でも、属性や人格の違いに関わらず全ての人が尊重されるインクルーシブソサエティを実現させるために、高齢者、障害者といったエクストリームユーザーの気づきやアイディアを反映させるインクルーシブデザインは、今日的な自然性・人間性復興のためのデザイン手法と位置付けています。インクルーシブデザインはバリアフリーデザインの1つの思考、方法論ですが、決してマイノリティのためだけのエクストリームなデザイン思考ではありません。実際世界的な大企業の一部がインクルーシブデザインを重要な企業戦略として取り入れています。デザイン開発を一緒に考えていくエクストリームユーザーの気づきやアイディアには、これまでデザインが対象としてきた一般的なマジョリティユーザーにはなかった新しい着眼点があり、ここから生まれる新しいデザインコンセプトは、より多くの人に受け入れられるメインストリームのデザイン開発に繋がる可能性が高いと考えています。
本セッションではインクルーシブソサエティやインクルーシブデザインのあり方について毎年様々な議論を展開していますが、今年はゲスト登壇者として先端研バリアフリー分野を創設された全盲ろうの著名バリアフリー研究家の福島智先生、中途失聴で聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林さん、そして資生堂クリエイティブ(株)クリエイティブディレクターで、資生堂インクルーシブデザイン研究、ユニバーサルビューティープロジェクトを推進されている和久井 裕史さん、塩田 笑子さんを迎え、先端研インクルーシブデザインラボの並木重宏先生にもリモートでご参加いただき、パネルディスカッションを展開します。全ろう、全盲ろうの研究者が考えるインクルーシブソサエティとは、美を追求する企業デザイナーが考える人の根源的インクルーシブビューティとは。多角的な視点で未来の包摂社会のあり方について議論して行きます。

登壇者
福島 智 東大先端研特任教授
並木 重宏 東大先端研准教授
松森 果林 聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐユニバーサルデザインアドバイザー
和久 井裕史 資生堂クリエイティブ(株)クリエイティブプロダクトディレクター
塩田 笑子 資生堂クリエイティブ(株)クリエイティブプロダクトディレクター

スケジュール
13:30-13:40           イントロダクション 伊藤節(ファシリテーター), 並木重宏
13:40-14:00       講演 福島智
14:10-14:30       講演 松森果林
14:40-15:00           講演:和久井裕史、塩田笑子 (資生堂クリエイティブ)
15:00-15:30           パネルディスカッション

登壇者プロフィール

伊藤節 (ITO Setsu)

筑波大学大学院芸術研究科修了。1995年ミラノにデザイン会社を設立。建築、インテリアからプロダクト、クラフトまで多岐にわたるデザインを手掛け、作品はミュンヘンとミラノの近代美術館の永久収蔵されている。ゴールデンコンパス賞(2011伊)、Reddot Best of the Best 賞(2016独)、iF Design賞(2022独)、Good Design賞(2018, 2022米)など多くの国際デザイン賞を受賞。ドムスアカデミー 、ベネツィア大学、ミラノ工科大学特任教授、筑波大学芸術系教授、東京大学先端科学技術研究センター特任教授。

福島智 (FUKUSHIMA Satoshi)

1962年神戸市生まれ。9歳で失明、18歳で聴力を失い、全盲ろう者となる。1983年、東京都立大学に入学。盲ろう者としては日本初の大学進学者。同大博士課程、同大助手、金沢大学助教授を経て、2001年に東京大学先端科学技術研究センター助教授、2008年から同センター教授、2023年度~同特任教授。1991年~全国盲ろう者協会理事。盲ろう者として正規の大学教員就任は、世界初と言われる。 専攻は障害学。博士(学術)。


並木 重宏 (NAMIKI Shigehiro)

東京大学先端科学技術研究センター准教授。筑波大学で生物学の博士号を取得した後に、米国ハワードヒューズ医学研究所において動物飛行の研究に従事する。この間神経難病が進行して帰国、長期間の入院の後、車椅子を使って大学に復帰する。東京大学着任後はバリアフリー分野への関心から、インクルーシブデザインラボラトリーを立ち上げ、実験室のアクセシビリティに関わる研究に取り組んでいる。


松森 果林(MATSUMORI Karin)

中途失聴者。学生時代に東京ディズニーランドのバリアフリー研究を行ったことをきっかけに、社会の課題を楽しく解決したいと (株)オリエンタルランド勤務を経て独立。聞こえる世界と聞こえない世界の両方を知る立場から、ユニバーサルデザインやDE&Iに関するコンサル、講演、執筆、研修講師を空港からエンターテイメントまで手がける。内閣府障害者政策委員会委員歴任(2014-2016)。2017年よりドイツ発祥、静寂の世界で言葉を使わず対話を楽しむ「ダイアログ・イン・サイレンス」を企画監修し、日本初開催を実現させ現在も注力。強みは聞こえないこと。


和久井 裕史 (WAKUI Hiroshi)

東京藝術大学デザイン科を卒業後 (卒業制作デザイン賞受賞)、同大学院修士課程修了。(株)資生堂に入社後、国内外のスキンケアブランドの製品デザイン開発、2014年から22年まで資生堂パリオフィスにてSERGE LUTENSブランドのフレグランス・メーキャップの製品デザイン開発に従事。帰国後、先端アートデザイン講座に参画し、インクルーシブデザインの思想を、既存の製品に取り入れる仕組みをデザイン・研究している。

塩田 笑子 (SHIOTA Emiko)

2000年武蔵野美術大学卒業。広告制作、洋食器のデザインに携わり、2007年に資生堂入社。以後、自社製品のプロダクトデザインに従事しながら、資生堂クリエイティブオリジナルの活動Universal Beauty Designのリーダーとしてプロジェクトを推進している。すべての人にとっての「美しい」デザインとは何か。決して見た目だけではない、すべての人が美しく過ごせる本質的なデザインを模索中。