テーマ:インクルーシブデザイン

日時:7月23日(水)13:15~15:15
会場:金剛峯寺大会議室
キーワード:デザインフォーオール、DEI、当事者デザイン研究


セッション概要:複雑混迷を極める今日の地球規模の環境・社会問題の中で、自然の一部である人類はいかに人間性を回復し、人間の内なる自然も含む自然と共生し、本来の自然に近い姿で生きていけるのでしょうか? 私たち先端アートデザイン分野が進めているアートデザイン活動は、人が人間らしく自然に生きるために必要な原動力であり、この問いに対する複合的な解を導く有効な手段と考えます。

その中でも、属性や人格の違いに関わらず全ての人が尊重されるインクルーシブソサエティを実現させるために、高齢者、障がい者といったエクストリームユーザーの気づきやアイディアを反映させるインクルーシブデザインは、今日的な自然性・人間性復興のためのデザイン手法と位置付けています。インクルーシブデザインはバリアフリーデザインの1つの思考、方法論ですが、決してマイノリティのためだけのエクストリームなデザイン思考ではありません。実際世界的な大企業がインクルーシブデザインを重要な企業戦略として取り入れ始めています。デザイン開発を一緒に考えていくエクストリームユーザーの気づきやアイディアには、これまでデザインが対象としてきた一般的なマジョリティユーザーにはなかった新しい着眼点があり、ここから生まれる新しいデザインコンセプトは、より多くの人に受け入れられるメインストリームのデザイン開発に繋がる可能性が高いと考えています。

本セッションではインクルーシブソサエティやインクルーシブデザインのあり方について毎年異なる視点を持つ専門家をお招きし様々な議論を展開していますが、今年は日本を代表する国際的工業デザイナーでデザインディレクター、Gマーク・グッドデザイン賞の審査委員長も務められた大阪大学名誉教授の川崎和男先生と、東大先端研社会包摂システム分野の近藤武夫先生、そして東大先端研AAD連携研究員でソニーグループ(株)クリエイティブセンターアートディレクターの近藤真生氏を迎え、工業デザイン、社会システムデザイン双方の視点からみたインクルーシブデザイン発展の可能性について議論します。川崎和男先生はご自身も事故で半身不随になられ、障がい当事者研究者として医療とデザイン、社会問題とデザインについて精力的に取り組まれています。その豊富な経験から未来のインクルーシブ社会へのデザインディレクションについてお聞きします。そして障がい者の教育や雇用システムの構築と社会実装を第一線で研究される近藤武夫先生から、インクルーシブ社会構築のための社会システム、仕組みのデザインの今後の発展性についてお聞きします。近藤真生氏からは東大先端研AAD分野で展開する“WOWclusive”コンセプトについて紹介頂き、包摂社会構築のためのデザインのあり方と可能性について考察して参ります。

「1200年後の世界」との関わり:2400年余前の古代ギリシャから、ローマ、イタリア・ルネサンスの流れで継承されてきた西洋科学技術の発展、その中でも特にここ150年余で体験してきた4つの産業革命を通して、現代の私たち人類は科学技術の大きな発展の恵みとともに、人間中心の科学技術がもたらした自然体系破壊や人類間の紛争による破滅の危機をも孕んでいます。1200年前に高野山の空海が説いた宇宙や自然と一体化する東洋的な包摂思想は、今後1200年、或いはその先の社会を継続発展させていくための大きな指針になります。未来の人材や社会を構築していくための教育やデザインも、人を含む自然界の多様性あふれる個性を互いに尊重しつつみんなで協力し合う、そんな人材の育成や社会のコ・デザインが大切になってきます。

登壇者(統括:伊藤 節

伊藤 節 Setsu Ito 東京大学先端科学技術研究センター特任教授
筑波大学大学院芸術研究科修了。1995年ミラノにSTUDIO ITO DESIGN設立。建築、インテリアからプロダクト、クラフトまで多岐にわたるデザインを手掛け、作品はミュンヘンとミラノの近代美術館の永久収蔵されている。Compasso d’Oro賞(2011伊)、Reddot Best of the Best 賞(2016独)、iF Design賞(2022独)、Good Design賞(2018, 2022米)など多くの国際デザイン賞を受賞。ドムスアカデミー、ベネツィア大学、ミラノ工科大学特任教授、筑波大学芸術系教授、東京大学先端科学技術研究センター特任教授。

川崎 和男 Kazuo Kawasaki デザインディレクター、博士(医学)、大阪大学名誉教授、名古屋市立大学名誉教授 
1949年生まれ。左右利き。伝統工芸品、メガネ、コンピュータ、ロボット、原子力、人工臓器、宇宙空間をデザイン対象。コンシリエンスデザイン、レジリエンスデザインによる 「ことばとかたちの相対論」、HUSAT = Human Sciences and Advanced Technology を造形言語化・形態言語化。国内外のデザイン賞受賞歴多数。グッドデザイン賞審査委員長等歴任。ニューヨーク近代美術館など国内外の主要美術館に永久収蔵、永久展示作品多数。

近藤 武夫 Takeo Kondo 東京大学先端科学技術研究センター 教授
東京大学先端科学技術研究センター・社会包摂システム分野・教授。博士(心理学)。専門はインクルーシブ教育・雇用、特別支援教育(支援技術)。広島大学教育学研究科助教、米国ワシントン大学Computer Science & Engineering/DO-IT Center客員研究員を経て現職。多様な障害のある人々を対象に、教育や雇用場面での支援に役立つテクノロジー活用や合理的配慮、修学・雇用制度の地域実装に関する研究を行っている。

近藤 真生 Makoto Kondo ソニーグループ株式会社 クリエイティブセンターアートディレクター 東大先端研連携研究員
2008年ソニー入社。クリエイティブセンターのデザインR&D分野において、ホームプロダクトのIoT連携によるインタラクション開発を担当。2018年にR&Dセンターにて”Augmented Physicality(拡張物理)”というフィジカルインタラクションコンセプトの開発を手掛ける。その後、“非常識な物理法則に人は順応できるのか?”というテーマで制作したプロトタイプを Sony Park Mini にて展示。2024年に東京大学先端科学技術研究センター先端アートデザイン分野の連携研究員として、インクルーシブデザイン分野におけるコンセプト “WOWclusive” を立案。