テーマ:宇宙と地域

日時:7月23日(水)10:00~12:00
会場:金剛峯寺大会議室
キーワード:宇宙開発、地域、地方創生


セッション概要:和歌山県串本町では、スペースワン株式会社による日本初の民間ロケット打ち上げ事業が進行しています。宇宙という遥か遠いフロンティアが、今や私たちの足元の「地域」と結びつこうとしています。これまで国家主導で進められてきた宇宙開発は、近年の技術革新と民間参入の広がりによって、その重心を変えつつあります。とりわけ、地方のまちが打ち上げの拠点となることは、地域にとって経済的にも文化的にも大きなインパクトをもたらすものです。

本セッション「宇宙と地域」では、宇宙開発が地方社会にもたらす可能性や課題について、多角的に議論を深めます。和歌山におけるスペースポートを起点に、種子島で展開されている「種子島宇宙芸術祭」など文化・観光と融合した取り組み、さらに建築や都市デザインの観点から見た宇宙インフラの未来像を交差させ、単なる技術開発にとどまらない人間と宇宙の新しい関係性を探ります。

宇宙開発が地域にもたらすのは、雇用や観光といった短期的な経済効果だけではありません。子どもたちが自分の町からロケットが打ち上がるのを目にすることは、未来に対する希望や創造性を育むきっかけとなり、地域への誇りとアイデンティティを育てます。最先端の科学技術と地方が接続することで、新しい交流・教育の機会にも繋がるでしょう。また、宇宙をテーマにした芸術祭や教育プログラムは、地域に新たな文化の土壌を生み出し、都市部とは異なる形の「創造性の集積地」としての可能性を開いていきます。

同時に、宇宙インフラの整備は建築・都市計画にも新たな挑戦をもたらします。アクセス性や安全性の確保、自然環境との共生、災害時の機能転用など、未来のまちづくりと宇宙開発は密接に関係し合う分野となりつつあります。

登壇者には、JAXA関係者、種子島宇宙芸術祭の企画運営メンバー、そして「宇宙港」の空間設計やその社会的意味を探究する建築家を迎えます。科学・文化・空間設計という異なる専門性が交わることで、「宇宙と地域」というテーマに複眼的な視点が加わり、豊かな対話が生まれることでしょう。

和歌山や種子島のような、ある意味、辺境にも見える土地が、実は未来の最前線となること。宇宙と地域が交差するこの時代に、私たちは何を問い、何を育て、どのような社会を構想するのか。本セッションでは、地域に根ざした視座から、宇宙と未来を見つめます。

「1200年後の世界」との関わり:和歌山県串本町のような地方がロケット打ち上げの拠点となることで、これまで中心都市に集中していたインフラや知的資源が、異なる地理的文脈の中に展開されていく兆しが見え始めています。「1200年後の世界」を想像することは、技術の進化そのものではなく、技術と社会がどのように関係し、どこに根ざしていくかを問うことでもあります。宇宙インフラの整備が一過性のプロジェクトで終わるのか、それとも教育・文化・産業と連動した持続可能な仕組みへと展開していくのか。本セッションでは、宇宙港構想、地域文化との接続、建築的な視点などを通じて、未来社会の「設計」に関わる問いを掘り下げていきます。

登壇者(統括:吉本 英樹

吉本 英樹 Hideki Yoshimoto 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
東京大学工学部航空宇宙工学科、同修士課程修了。その後渡英し、2016年英国 Royal College of Art、Innovation Design Engineering学科博士課程修了。2015年にロンドンで Tangent Design and Invention Ltd 創業。2020年より東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。工学とデザインのハイブリッドな分野で活躍し、両分野で受賞多数。自身のスタジオ「TANGENT」では、多国籍なチームを率い、世界的な高級ブランドを顧客に、プロダクト開発から展示会ディレクションまで様々なデザインプロジェクトを手がける。2021年和歌山県文化奨励賞を受賞。

大久保 康路 Koji Okubo 日建設計 設計部門アソシエイトアーキテクト/SALラボリーダー
東京大学大学院を修了後、日建設計入社。超高層ビル設計のため2014~2018年日建上海に赴任。「上海AIタワー&プラザ」で風のデザインを取り入れた建物と公共空間で日本建築学会作品選集、日本空間デザイン賞、アジアデザインアワードなどを受賞。担当プロジェクトに「上海ギャラクシービル」「阿蘇くまもと空港ターミナルビル」など。社内ラボのSALでスペースポートシティのプロトタイプ作りに取り組む。

大塚 成志 Seiji Otsuka JAXAワーク・ライフ変革推進室/総務部 参事
1992年慶應義塾大学商学部卒業、宇宙開発事業団(NASDA)に入社。2003年に三機関統合により宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足。宇宙輸送技術部門事業推進部計画マネージャ、広報部企画・普及課長、宇宙探査イノベーションハブ・ハブマネージャ等を経て、現職。種子島に赴任していた2011年に森脇裕之多摩美術大学准教授(現教授)らと出会い、種子島宇宙芸術祭の立ち上げに参画。現在は種子島宇宙芸術祭実行委員会アドバイザーも務める。

小山田 裕彦 Hirohiko Koyamada 種子島宇宙芸術祭・総合ディレクター
鹿児島県生まれ。未来志向のプロジェクトの連環・調整を専門とし、東京ディズニーランドやミュージアム、万博、地方博など多岐にわたる企画に従事。文化施設や事業開発、まちづくり、ライフスタイル調査、教育・環境・子ども支援にも関わる。柏の葉UDCKではアート×まちづくりプロジェクトを多数推進。2016年より種子島宇宙芸術祭総合ディレクターを務め、自然・テクノロジー・アートを通じて地域と宇宙をつなぐ活動に取り組んでいる。

永崎 将利 Masatoshi Nagasaki Space BD株式会社 代表取締役社長
福岡県北九州市出身。03年早稲田大学教育学部卒業後、三井物産にて人事・鉄鋼貿易・鉄鉱石資源開発に従事。13年独立、1年間の無職混迷の期間を経て、14年にナガサキ・アンド・カンパニー設立、教育事業を手掛け、17年Space BD創業。宇宙商社®として人工衛星打上げサービス等をグローバルで展開、宇宙の基幹産業化に挑んでいる。著書に『小さな宇宙ベンチャーが起こしたキセキ』(20年、アスコム)。