人類はこれまで,人間をとりまく自然を支配する法則を理解し,地球の歴史とともに蓄えられてきた資源を利用して自然を制御することで,能力を拡張してきました.これは,私たちの幸せを増やしたでしょうか?フラットで双方向なコミュニケーションが地球全体で瞬時に展開され,サイバー空間上で人類がふれ合い豊かさを享受できる社会が実現されそうです.一方で,人類による利便性の追求は資源制約や気候変動に直面して見直しを迫られています.さらに,人類を絶滅させるほどの大量殺戮が可能になり,いまでも世界中で戦争が続いています.
科学技術の発展に比して,人間の倫理が追い付いてないことが,現在の複雑な問題の根底にあるのではないでしょうか.人間が自然のごく一部でしかない段階では,人間の能力拡張は生存のための正義であったのでしょう.しかし,人間活動が自然の在り方を大きく変えるほどに人間の能力が拡大した現在,人類とその周囲の自然すべての「より良き生存」を目指す新たな啓蒙・倫理の確立が強く求められているのではないでしょうか.
科学技術による人間拡張の限界を悟った人々が,古今東西のあらゆる哲学を参照し,人間中心の世界観から,地球上の万物の調和と共生を可能にする新たな価値観への転換を目指す.理性による二者択一的な討論ではなく,豊かな感性を織り交ぜた包摂的対話が展開される.高野山会議は,このようなユニークで世界をリードする学堂でありたいと願っています.
東京大学先端科学技術研究センター 所長・教授 杉山正和