研究目的
神崎教授グループ:
昆虫が獲得した感覚・脳・行動の機能や機構の解明は,生物学的に重要なだけではなく,工学設計においても重要な手本となる.なかでも昆虫がもつ匂い検出とその発生源の探索能力は群を抜くが,工学的には未だ実現できない技術である.昆虫の嗅覚による適応能力を評価し,その神経機構を解明するための新しいアプローチである「昆虫-ロボット融合システム(サイボーグ昆虫)」の研究や,昆虫脳をスーパーコンピュータ「京」に再現することで理解し,活用する研究を進めている.また,遺伝子工学技術により昆虫の優れた生体機能を活用した匂いセンサや,昆虫自体をインテリジェントなセンサ(センサ昆虫)とする研究を進める.昆虫科学により新しい科学と技術の世界の開拓を目指している.

高橋講師グループ:
脳の情報処理機構の理解をさらに深めるためには,個性豊かな神経細胞がどのように集団として協調して活動するかを明らかにしていくことが鍵となる.そのため,当グループでは,100個以上の微小電極からの多点同時に神経活動パターンを計測する手法を確立してきた.研究の対象として,培養神経細胞,ラットの脳,てんかん患者の皮質の脳波を扱い,目的や神経回路のスケールに応じて,細胞レベルからヒトの脳波までを幅広く研究する.

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神崎教授グループ 高橋講師グループ

遺伝子工学
匂いセンサ
センサ昆虫

脳神経生理
電気計測・工学計測による
脳機能分析
脳再構築
次世代スパコンによる脳の
モデル化とシミュレーション
生体-機械融合
環境適応の理解と応用
昆虫規範型ロボットの構築
学習と脳
培養細胞から
ニューロリハビリテーション−

昆虫の嗅覚受容を利用した
高感度・高選択・リアルタム
匂いセンサの構築


モデル生物であるカイコガを用いて感覚・脳・行動のしくみを単一のニューロンから解明する


昆虫脳の単一ニューロンの
構造・機能分析と回路のモデル

昆虫操縦型ロボット
昆虫が操縦するロボット
日本科学未来館で常設展示


学習による聴皮質の可塑性
情報表現の変化


昆虫の性フェロモン識別機構の解明とバイオセンサの開発


昆虫の匂い識別機構の解明
触角葉における糸球体の匂い刺激に対する時間空間応答のイメージ化

神経回路シミュレーション
カイコガのフェロモン源探索行動の
定型的パターンを形成する
前運動中枢における神経回路の
シミュレーション

昆虫の脳の信号により制御される
移動ロボット(昆虫サイボーグ)
上海万博に出展、橿原市昆虫館
日本科学未来館
で常設展示

培養神経細胞を用いた
ニューロコンピュータチップの開発

ニューロン機能の人為的操作
チャネルロドプシンやハロロドプシン光制御による機能的神経回路網の特定

昆虫脳を構成する神経細胞の
網羅的研究.可視下で特定の神経細胞に電極を刺入し計測する

カイコガ標準脳
この内部に神経回路をニューロンから精密に再現する

昆虫脳をモデルとした匂い源探索ロボット


電極アレイ上の培養神経から
神経回路の構築


遺伝子操作によるカイコガの
脳神経細胞の分析


昆虫脳活動のカルシウムイメージングによる神経情報の時空間分析

昆虫脳のを構成するニューロンの世界最大級のデータベース
リアリスティックな昆虫脳モデルの構築をおこなう

昆虫機能の産業利用
昆虫の複眼機能を活用した
障害物回避ロボットnissan-BM23C
(日産自動車との共同研究)


錯聴を誘導する
聴覚系メカニズムの解明
■ 脳を創り、理解し、活用する研究

21世紀の最も重要な研究テーマとして、脳のしくみを知ることが挙げられます。私たちの研究室では、脳の構造と機能を生物学的に分析し、その結果を工学的に再構成することによって、脳を理解したいと考えています。しかし、人間の脳は、それを構成する素子である神経細胞が1000億個もあり、その一つ一つを 解析することは非常に困難です。そこで、神経細胞数が10万個程度と少ない、昆虫の脳を中心に、無脊椎動物のシンプルな神経系をモデル脳として研究しています。これらの動物は、神経系こそ小さなものではありますが、私たち人間に匹敵する能力を持っています。走る・泳ぐ・飛ぶといった運動能力のほかにも、記憶・学習や、ミツバチのように高度な社会性を持つものも少なくありません。また、昆虫の匂いをかぎわけるしくみは、私たち哺乳類と同じであることが分かってきました。また、軟体動物のアメフラシも記憶・学習による神経回路の変化が初めて明 らかにされ、神経回路研究のモデルとして広く用いられています。

私たちは、カイコガの匂い源探索行動を中心に、神経回路を構成する個々の神経細胞から実際の行動までを分子遺伝学,神経生理学,光生理学(イメージング),行動学,さらにロボティクスなど様々な手法を用いて研究しています。神経細胞の活動をとらえるために、先端直径0.1μmの細いガラス管微小電極を神経細胞へ刺入することで活動電位を記録する細胞内記録法、複数の神経細胞の活動を同時に捉える光学計測法などを用いています。このような神経細胞の情報は理化学研究所との共同研究によってデータベース化が進められています.実際の行動を捉えるためには、昆虫の運動を自動的に追跡するトレッドミルやサーボスフィア、高速度カメラを用いています。その他にも、超小型軽量テレメトリといった新しい実験方法の開発にも取り組んでいます。また,遺伝子操作技術によって,特定の神経細胞を蛍光タンパクでマーキングしたり,神経細胞の活動によって蛍光強度が変化するタンパクを発現させることで,神経活動を計測しています.さらには,昆虫の脳が生成する行動指令信号によって移動ロボット(ロボット化した身体)を制御する,昆虫のサイボーグ化にも世界で初めて成功を収めています.

これまでの研究により、一見複雑なカイコガの匂い源探索行動が、プログラム化されたパターンから構成されていること、そしてそれらの行動を司る神経回路が神経細胞のレベルから明らかになってきました.私たちはさらに、これらの神経回路を精密にモデル化し,次世代のスーパーコンピュータによりシミュレーションすることで,昆虫の脳内の神経回路は,匂いの情報を受け取り,実際にどのように機能しているかを視覚化し,推定することがはじめてできるようになってきたのです.そしてこの神経回路モデルでロボットを制御し,カイコガの匂い源探索行動と比較するのです.このような生物学と工学,情報学の境界領域に立脚した研究手法と数多くの成果は、世界的にきわめて高い評価を得て きました。

さらに、私たちは、昆虫脳を脳研究の「モデル」として考えるだけではありません。3億年以上も前の石炭紀の化石に見られるように、幾多の環境変動にもかかわらず、昆虫はその姿をほとんど変えることなく今日に至っています。これは、昆虫が非常に環境適応性に優れた設計をしているためであり、ロボット工学の面でも非常に注目されています.私たちは、昆虫をロボットに組み込み、神経系から指令される行動指令信号を検出してロボットを駆動する、生体-機械融合システム(昆虫サイボーグ)の製作を目指しています。これを様々な環境で動作させることで、刻々と変化する環境に対応した神経系の活動をリアルタイムで観察することができ、昆虫の環境適応性に優れた設計を学ぶことができると考えています。このようや取り組むは,日産自動車との共同研究による,昆虫の視覚機能を活用した「障害物回避ロボット」にも生かされています.
■ 研究チーム

 ・遺伝子チーム(匂いセンサ)
 ・昆虫脳神経生理チーム
 ・昆虫脳神経回路モデルチーム
 ・生体-機械融合チーム
 ・ラットチーム(学習・記憶と脳の可塑性)

論文リスト
共同研究
研究プロジェクト